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楽団日記

札幌で活動する芝居のエンターテイメント集団、                                  弦巻楽団の弦巻楽団による皆様のための日記です。

往復書簡(果実 感想メール)

公演お疲れ様でした。

劇場でアンケートを仕上げることができず、メールを送らせていただきます。

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今回の『果実』は劇場通信のあらすじとチラシの印象から、
勝手に無機質な、少しだけ近未来調のラブストーリーを想像していました。
ところが、始めにルルヅキ先生がむしろにくるまれて拉致されてきたとき、
こんなことって!?と力が抜けてしまいました。
そして、お父さんのシナリオを聞いた時点で“ラブストーリーを観る心構え”が完全に崩れました…

「恋愛して」と頼まれたとき、先生はちょっとは奥さんのことを考えたのでしょうか。
ご結婚されていたなんて、衝撃的です。ひどい人です。
それなのに杏さんにはどんどん感情をつぎ込んで、しまいには会話までできちゃって。
杏さんと“生活”してきたご両親には声が聞こえなくて、
現実と距離があった先生には聞こえたってことは、やっぱり杏さんに残ってるのは心だけだった。
体はもう生の側にはなかった、ということでしょうか。
じゃあ、なんで最後に杏さんの声が聞こえなくなってしまったのか。
心なら、身体とは関係なく、生きていてもいいんじゃないか。
図書館で本を落ちてきたのは偶然ではなく、杏さんの仕業だと思っています。
ラジオのリクエストも杏さんがやったんだと思います。
生きてる、というのは“生きてる”誰かに影響を与えられることではないでしょうか。
先生がいつまでも杏さんとお喋りできるような幽体離脱状態だと、
先生の中で杏さんが“生きてた”ことになりません。
本は、「こっちにいたのがわたしだよ」「わたしたちはここで生きていたんだよ」
という最後のメッセージだったのだろうと思います。

そう考えると、誰かの不在で現実に心が痛む時、
もういない誰かはわたしの中で生きていることになります。
だから、ルルヅキ先生には“生活”があるほうの世界で生きていってほしいです。

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舞台を観ていたとき、本当に悲しくて泣きっぱなしでした。
正直、アンケートどころじゃありませんでした。
今は昼間のことを思い出しながら感想を書いているので、
その“不在”を確認している状態ですね…

次の公演が待ち遠しくてたまりません。
“生きた”舞台、素敵なお話を観られて幸せです。
こんな長くて、まとまっていなくて、的外れかもしれない感想文を
最後まで読んでいただいたことも含めて、ありがとうございました。

朝方はとても寒いので、皆さまお体に気をつけて。
では。


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大変想いのこもった、丁寧なお便りありがとうございます。
劇団弦巻楽団、代表の弦巻啓太です。
先日は「果実」にご来場頂き、ありがとうございました。

> 「恋愛して」と頼まれたとき、先生はちょっとは奥さんのことを考えたのでし
ょうか。ご結婚されていたなんて、衝撃的です。ひどい人です。
> それなのに杏さんにはどんどん感情をつぎ込んで、しまいには会話までできち
ゃって。

「果実」は6年前に書いた脚本です。
以前自分が所属していた劇団で、最後に上演した作品です。その時はメンバー全
員が若く、父親の柿右衛門を演じたのは26歳の自分でした。

6年前の反応と違ったのは、この「ルルヅキが既婚者である」という点について言
及するお客様が多かったことです。疑問視する方もいました。
確かに、ラブストーリーとしては幻滅?な設定ですよね。ルルヅキ君の株もここ
で少しダウンしてしまうようです。
でも、これはどうしても外せない設定でした。
「結婚は?」という杏の質問に「失敗した。」とだけ答えたルルヅキ。
おそらく、ルルヅキ君は9年と8ヶ月、数奇な運命を生きながら、それでも恋をし
、夢を見、嘘もつき、汚いこともし、人を裏切って生きてきたんだと思います。
杏のことだけを想い続けた訳ではなく。しかし、忘れた訳でもなく。8回も自殺を
試しながら。

変化せず生きていける人はどれくらいいるでしょう?
少なくても僕は(僕たちは)、変化し、転向し、妥協し、折れ曲がり、ゆがみ、
日々違う姿に、違う人間になっていくんだと思います。それでも、時々見てみぬ
振りをしていた過去に出会ってしまう。そうした悲しみが多ければ多いほど、胸
に響く作品を目指して稽古していました。9年8ヶ月ぶりに目を覚ました杏がルル
ヅキに掛ける一言、「変わってないね!」は、作者でありながら自分にも突き刺
さりました。6年前よりもずっと。
なので、ルルヅキ君に奥さんがいても、ちょっとだけ許してやって下さい。

> 生きてる、というのは“生きてる”誰かに影響を与えられることではないでし
ょうか。

なるほど。

> そう考えると、誰かの不在で現実に心が痛む時、
> もういない誰かはわたしの中で生きていることになります。

僕もそう思います。ある種の欠落や喪失は、そのギザギザした手触りが、輪郭が
、失われたそのものの「存在証明」なんだと思います。

> 次の公演が待ち遠しくてたまりません。
> “生きた”舞台、素敵なお話を観られて幸せです。
> こんな長くて、まとまっていなくて、的外れかもしれない感想文を
> 最後まで読んでいただいたことも含めて、ありがとうございました。
> 朝方はとても寒いので、皆さまお体に気をつけて。
> では。

いえいえ、こちらこそ本当にありがとうございます。

12月の公演「十二月組曲」は全然くだらない、ドライで笑いにあふれた群像劇に
なる予定です。ただ、同じように悲しみを癒さぬ、でも愛と祝福に満ちたステー
ジにするつもりです。また劇場に足を運んでいただければ…と思います。

Ⅰ様こそ、朝晩ぐんと冷えてきております、お体にお気をつけください。

では。

弦巻啓太


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メール拝見いたしました。
まさかお返事いただけるとは思っておらず、
返信が遅れてしまって申し訳ありません。

「メールを含めたやり取りをブログにアップ」とのお申し出、
とても嬉しいです。是非お願いします。
今読み返すと、舞台の熱が冷めないままよく書いたよ。
と、自分でも呆れるくらい長いメールですよね。

ルルヅキ先生のこと。
「生きてると段々悲しくなる」こと。
放っておいても明日が来てしまう、という怖さ。
囚われているわけではないけれど、すっかり忘れているわけでもないこと。
それに気づいてしまったときの、
自分と、自分の周りの空間と、誰かや何かまでの距離。
お返事を読んで、そうか、と思える感覚を見つけました。
ありがとうございます。
(ルルヅキ先生も、許しましょう…なんて)

余談ですが。
紹介していただいた「シアターホリック」、早速読みました。
実は、その中に “センチメンタル路線”代表として出てくる
『センチメンタル』という作品、見に行っています。
キューピー(?)のチラシですよね。
当時、まだ高校生。
台詞の一つ一つは思い出せませんが、
終盤にかけて泣き声を抑えるのに精いっぱいで、
とても感想を書ける状態じゃなかったことだけは覚えています。

『十二月組曲』の稽古開始はもう少し先でしょうか。
「悲しみを癒さぬ、でも愛と祝福に満ちた」舞台、
きっとぜったい素敵だと、今からドキドキしています。

楽団日記にあるような絶好調が、できるだけ長く続きますように。

では。
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